クルーズトレイン

掲載日2014年09月07日
 2013年10月に、JR九州で、「ななつ星in九州」という、豪華クルーズトレインがデビューしました。一般的な列車で早い者勝ちではなく、ツアー扱いの抽選販売。しかも2人で100万円を超えるコースもあるといいます。
 この好評に目を付けたJR他社も、クルーズトレインを走らせる計画があるそうです。クルーズトレインとしては後出しですが、現時点で豪華な寝台列車を走らせている(しかも予算も多いであろう)これらの会社が、元々ユニークな車両を走らせているJR九州と比べて、どれだけの車両を用意できるか、見物でしょう。

 寝台夜行列車がなくなっていく中で、こういう列車が出来るのはいい傾向に思います(全廃となってしまい、深夜に列車が走らないとなると、元には戻らないでしょう)。クルーズトレインの細かい運行時刻は分からないものの、夜も移動するのは変わらないでしょう。また、広い客室や食堂車など、魅力的な車内なのは、写真を見て分かります。しかし、ちょっと味気ないような気がします。

 移動手段としての夜行列車のいいところと言うと、夕方や夜に現地を出発し、寝ている間に走行し、朝起きると全く違う場所に降り立ち、もしかしたらその先も旅が続くと言うことです。出発地は天気がいいのに到着地は雪が積もっている事は十分あり得ます。例えば、下りの北斗星やトワイライトエクスプレスの場合、上野や大阪を出て、札幌に到着すると、そのまますぐに東京や大阪に戻るわけではなく、北海道内の旅行がある、プロローグ的な存在です。これらの列車は、(移動するという)現実の中に、(なかなか乗らない寝台列車という)非現実がそこにあるわけです。…と言っても最近は、この列車に乗って、後はそのまま帰ってしまう人は多いようです。それだけレアな存在なのも確かですけれども。
 ところが、クルーズトレインの場合はそれだけで旅行が完結するツアーですから、始発と終着が同じです(ななつ星の場合は博多駅)。降りた途端、旅行は終了となります(東京の人が乗る場合、帰京のために飛行機などに乗るものの、旅行の続きと言うよりも、〆になる)。ななつ星という非現実が、博多駅で分断され、あっという間に現実に引き戻されてしまいます。まぁ、現実の中の非現実と、非現実と現実の分断と、どちらがいいかは人にもよるでしょうが…。また、これらはツアー形式(旅行商品)となり、途中、色々なイベントが組み込まれるようですが、要は、全部がお仕着せです。余計なお節介と感じる人もいるかもしれません。また逆に、ここの場所を通るのに通過されてしまう(途中下車が出来ない・自由が利かない)のは面白みがないと思う人もいるかもしれません。ななつ星の3泊コースの場合、うち1泊は高級旅館に泊まるようですが、別に駅前のビジネスホテルで十分と言う人もいるでしょう(そういう人を排除したいのかな…??)。
 また一方で細かな話しですが、例えば金曜日まで北海道で出張だから、金曜日発の北斗星に乗って帰宅…という、仕事でどさくさに紛れて乗ってしまおうということもできなくなります。せわしない世の中、こういう小さなことが嬉しいでのはないかと思いますが、そんな余裕はJRにはないのでしょう。そもそもクルーズトレインの対象者は、現役の世代ではなく、リタイアした世代だろうから、移動手段としては、もう、どうでもいいのかもしれません。

 夜行列車全体での話ですが、何故定期列車を廃止して、臨時列車にしてしまうのでしょうか。JR側は、今までの夜行列車は、利用率が少ないという説明をしています。利用者の少ない時期には走らせなければいい(募集しても、人が集まらなければ運転しなくていい)と言うことです。しかし、比較的個室の利用率は良く、どうも信用できません。人間が移動するという需要がある以上、利用率が少ないのは怠慢です。私自身、北斗星に乗りたくても、席が取れずに乗れなかったことが何回かありました。また、平日に乗れたことがありますが、個室が多いのでなかなか中は見られませんが、ガラガラという印象はありませんでした。それでも利用率が少ないと説明するのは不思議です。おそらく、寝台のグレードによっては、空いているのかもしれませんが、人気のグレードの増床を考えないのは、車両を造りたくないという話しかもしれません。これは、大都市圏〜北海道を結ぶ列車に限らない話しです。
 もう一つ、廃止する言い訳として、車両の老朽化という理由もあります。トワイライトエクスプレスが15年3月に廃止になる旨、14年5月に発表されました。車両の老朽化とのことですが、「プラチナチケット」と言われるほどこの列車の予約が困難なこの列車で、車両(24系)そのものは廃止は仕方ないとして、「トワイライトエクスプレス」そのものを廃止する理由としては不満です。
 コストに見合わなければ、寝台料金を値上げすればいい話です。人気がある寝台列車なら、サービスを落とさなければ、値上げをしても文句を言う人は少ないでしょう。文句を言う人はいても、それで利用が大幅に減ることはないものだと思います。

 細かな話しはまだ続きますが、こういうクルーズトレインは、1編成しか製造されません。故障や事故があったときの不安が大きいです。これはかなり個人的な感情ですが、なんというか、列車の編成美というか、1編成だけの形式って、つまらない気がします。鉄道マニアの性として、型にはまったもの(毎日何時何分何秒に走り出したり、列車が到着〜出発の車掌の動きの流れや、飛行機であれば離陸前の同じ内容のアナウンス等々)がしっくり来るような気がしますが、「1編成しかない」=「臨時」だと、いくらでも改変できるからつまらなく感じるのかもしれません。型があるからこその鉄道でしょうか。

 大阪〜札幌間を結ぶトワイライトエクスプレスは、デビュー当初はクルーズトレインに近い団体列車だったようで、それがやがて3編成製造され、(事実上の)定期列車になりました。やがて、クルーズトレインが定期列車になってもらいたいものです。定期列車にしても、需要は十分あると思うのですが…。

 (15年3月になくなる)トワイライトエクスプレスや、(なくなるという噂の絶えない)北斗星は、北海道新幹線開通の影響を受けてのこういう話です。新幹線は、夜行列車の代わりにはなりませんし、飛行機と比べてもあのサービスや応対ではね…。




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