夢も生活もつぶす新幹線

掲載日2015年01月12日
 2002年9月、北陸本線の普通列車に乗っていたら、とある駅にこのような看板を見かけたことが忘れられない。

夢を乗せた「新幹線」
生活乗せた「在来線」
必要なのは?
     朝日町

 泊駅周辺にあったという記録だった。ここでいう「新幹線」とは、15年03月14日に開通する北陸新幹線のことだろう。この駅には北陸新幹線は止まらない。
 ちなみに、このQ&Aサイトによると、2007年5月頃の時点でも看板があったようだ。


夢を乗せる…?

 上記の看板では、新幹線には夢があるということになっているが、実際のところ、この夢もないのではないかと思う。
 大阪〜札幌間を、北陸経由で結ぶ「トワイライトエクスプレス」が、15年03月で廃止になってしまう。プレスリリースに書かれた一番の大義名分は、「(現在使っている24系という)車両の老朽化」とのことだが、それが正しければ、新車が入る前提の“24系の引退”というプレスリリースになるはずだ。列車ごと廃止になると言うことは、車両の老朽化以外の、本当の理由があるとしか思えないわけで、その本当の理由(遠因)として当たり前のように言われている理由が、北陸新幹線開通である。
 北陸新幹線が開通すると、並行して走っている北陸本線はJR線ではなくなり、第三セクターとなる。となると、乗務員の手配などで問題が生じるために、廃止になると推測できる。同じく大都市から札幌に向かう寝台特急「北斗星」も、東北新幹線が盛岡〜八戸間で延伸した際、並行在来線は第三セクターとなったものの、こちらはそのまま第三セクターの線路を走っているのだが、トワイライトエクスプレスは走らせてくれないのである。
 廃止というプレスリリースが出る前から切符の確保が困難な列車で、まさに「夢を乗せる列車」と言っても過言ではない。寝台列車=夜行列車なので、文字通り、夢(寝ている人)を運んでもいる。新幹線は、メンテナンスが理由なのか、0時から6時までは走っていないので、夜行列車を設けることはしない。
 夢の有無と言うより、夢を奪うのが新幹線だ。一方、北陸新幹線そのものに夢があるのかどうかだが、これは意見の個人差があるにしても、(東海道新幹線の開通した)1964年頃ならば夢と言ってもいいかもしれないが、今となっては(事故の有無など、質はともかく)共産主義国の某国ですら数多く走っている高速鉄道に、今更夢などない(決して、上記の看板を立てた人に対して言いたい話ではありません、一般的に言われている気がしますしね…)。

 ちなみに、夢を乗せるつながりで言えば、2010年03月には、この北陸本線を走る「北陸」「能登」という、寝台列車・夜行列車が廃止になった。最後まで上野〜金沢間を2往復していたのだから、ある程度の需要があったと推測できる。これも、建前としては「車両の老朽化」だが、その後新車が入ったわけではない。ただ、こちらは、ほぼ同じ区間を北陸新幹線が走るわけで、今までなくなった夜行列車と同じ運命を、この列車もたどってしまったわけである。


生活を乗せる…?

 そしてもっと現実的なものが「生活」である。上記の看板はおそらく、並行在来線が第三セクターに移り、運賃が事実上の値上げになることを、10年以上前から危惧していたのではないかと思う。
 また、新幹線が止まらないことにより、新幹線の止まる近隣の町に人が流れたり、何らかの施設を造る際も、新幹線駅付近に造る可能性も出てくるなどの経済的な衰退が出てくるだろう。日帰り圏内の拡大で、朝日町に用事があっても宿泊しなくても東京に帰れるという意味合いで、宿泊業者にとっても悩みの種となるかもしれないが、これはまぁ、富山空港から東京までの直行の飛行機が飛んでいる時点で似たようなものかもしれない。
 北陸本線をJRが手放し、第三セクター(赤字で補填前提)で運行させるというのは、仕方なく運行します感を感じる。結局のところ、JRによる、該当する地域の切り捨てである。自動車を含めた、JR以外の手段を使っていくしかないだろう。


じゃあ、何を乗せる…?

 結局、何を乗せるのかと言えば、地方の経済を根こそぎ東京などの大都市まで乗せるのが新幹線」だろう。要はカネの一極集中である。この20年近く続く不況の中、日帰りで済むところを、わざわざ宿泊させる必要はない。これは大げさだが、東京まで気軽に往復できれば、現地の営業所を閉鎖して、東京から向かうことも不可能ではない(そうでなくても、正社員は現地の営業所に置かず、非正規雇用の人間のみ常駐させるなどの人件費削減の可能性はありそうに思える)。現地に滞在する必要がなければ、現地の飲食店も割を食う。観光にしても、新幹線駅の周辺は人が集まるだろうが、そうでないところは、よほどの注目の集まる場所でなければ見向きもされなくなる。今後しばらく、マスコミは北陸新幹線開通に関連した記事を載せるだろう。観光におすすめの場所として、いろいろ紹介されるだろうが、北陸本線沿線の、新幹線とは無関係な場所は紹介しないはずだ。
 約15年前に、長野新幹線が開通する際、東京に持って行かれるいう危惧があったからか、「長野行き新幹線」という苦肉の策の名前で走らせていた覚えがある。そんな中、JR東日本が「長野は東京だ」というキャッチフレーズを出し、大ひんしゅくを買ったそうだが…。その長野行き新幹線が、気づいたら「長野新幹線」になり、15年03月に「北陸新幹線」となる。この北陸新幹線は、15年03月に金沢まで伸びるが、これで終わりではない。この先も、延伸する地域を敵に回しながら伸びていくのだろうか。
 また、新幹線開通では百億円単位の経済効果が見込めるようだが、ここで主な恩恵が受けられたのは、談合のあった建設業者だけだろうか。


ナンバーワンだけ意識してオンリーワンをなくす

 北陸新幹線に限らず新幹線は、飛行機を意識している(またその一方、新横浜〜熱海間などの短距離利用は重視されていない、大都市だけにしか目を見ていないところもポイント)。過去のいろいろなCMを見ても明らかだ()。ただし意識していると言っても、新幹線が飛行機に対して意識しているのは、所要時間だけであり、サービスや乗務員の質までは意識していない(グリーン車よりも上級のクラスがあるようですが、東北新幹線の同等クラスを見る限り、本当に飛行機を意識していたら、あんないい加減なものにはならないでしょう)。
 一方の寝台列車にはライバルがほぼいない。(上級船室のある)フェリーが近いが、お互い意識しているようには見えず、フェリーには自動車の輸送ができるなどそれぞれ代えがたい特徴がある。その寝台列車をなくしている。予約の取れない寝台列車をなくす鉄道会社。新幹線がなくても飛行機で十分事足りるが、寝台列車はJRがなくせば代わりがない。なんだか、鉄道旅行としての夢(楽しさなど)がない。少子化により人口が減っていく中、鉄道利用者数も減っていくが、夢のないものばかり用意して客が増えると思っているのだろうか。
 この先、北海道新幹線もできていくが、北斗星に乗っていた人が、そのまま(面白味のない)新幹線に乗るとは限らないんだよ。結局言いたいことは、クルーズトレインと似ちゃったな…なので…新幹線ができることにより、デメリットが大きいかもしれない、ということである。失われたものは戻ってこない、夜行列車も、地域経済も。




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