ファーストクラスのデメリット

〜需要と供給と理想と現実〜

掲載日2022年05月08日
 JR九州のななつ星などの、クルーズ向けの乗り物を除いて、国内の交通機関でトップクラスでサービスがよい(座席や乗務員、地上のサービス)座席・クラスはと聞かれると、日本航空のファーストクラスだと思う。
 2007年12月にデビューし、現在は羽田〜伊丹・福岡・札幌・那覇線と、伊丹〜那覇線で用意されている(季節によっては羽田〜石垣線でも用意されているようですが)。機材やサービス内容は変わりはしているものの、サービスが一番よいのは現在も変わらないと思う。ただ、それが、現実とを比較すると、足を引っ張っているのではないか…と思うようになった。


予約が取れない背景

 というのも、「プラチナチケット」と言うのも大げさかもしれないが、直前だと、早朝でもなければ席が空いていない。これにはいくつか理由がある。
  (1)サービスがいいことが知れ渡ってしまった
  (2)路線が少ない
  (3)定員が少ない

 (1)について、距離によって10000〜12000円の追加料金で最上級のサービスを受けられるわけで、リピート率も高いのではないかと思う。しかも22年4月までは一律8000円だった。羽田〜那覇線のように長距離フライトでこの座席なら快適な移動になるのは間違いない。00年代は、ガラガラではないとしても、当日に予約しても確保出来るくらいの混雑具合だったが、今では搭乗数日前では、希望の便は満席ということも多々ある。驚くことに、フライト時間の短い東京・羽田〜大阪・伊丹線が特に顕著だ。
 最近は、席はあっても普通運賃でしか予約出来ない便も多い。全便一律に用意しておらず、最終的な搭乗率に応じて割引席数を調整するようで、発売開始日直後であっても割引運賃の席は売られていない便が大半だ。実質的には、普通席+10000〜12000円という差額ではない。

 (2)について、単純に地上側が追いつかないから、幹線以外は増やせないのだろう。現在のファーストクラスが運航している路線の5空港(羽田・伊丹・福岡・札幌・那覇)では、マイレージの最上級会員向けと兼用だが、専用のチェックインカウンター、専用の保安検査場、最上級ラウンジを設けている。ファーストクラスたらしめるには、座席だけというわけにはいかないという判断はあるだろうし、それには賛成だ。時々、機材の運用の都合で、ファーストクラス付きの機材が他の空港に飛ぶことがあるが、1000〜3000円の追加料金でよいクラスJに解放している。
 また、自分だけかもしれないが、東京から熊本に行くのであれば、羽田→福岡線のファーストクラスに乗って、博多から九州新幹線で熊本に行くような人もいるかもしれない。となると、なおさら幹線に集中してしまう。本数や熊本周辺のアクセスの都合もあるかもしれないが…。

 (3)について、ファーストクラスを搭載している機種の定員は5〜12席。コロナ禍でもファーストクラスやクラスJは満席、普通席はガラガラという便も多いようだ。単純に倍増させればいいじゃないかと思いたいが、希少価値的なものも考えているのだろうが、この定員を増やすのは、バランス的に不都合と思われる。
 本来なら、22年現在で14席まで用意されていた機種(B777-200)があった。ところが、機種全体でエンジンに不具合があり、急遽21年3月末で引退してしまった。元々22年度中の引退は決まっていて、それまでに別の機材(A350-900)に置き換わるつもりだったが、急な引退だった。B777-200が引退していなかったら、ファーストクラスの供給席数はもうちょっと多かったことになる。
 ちなみに、ここででてくるのが、ファーストクラスのないB777-300の置き換えも、ファーストクラスのあるA350-900で、計画していた16機が22年4月に揃った。ファーストクラス的には増席ではあるのだが、需要に追いついていない…。

機種CFG 定員 定員
割合
CA乗務
全クラス Fクラス
引退B777-200 [W16] 375 14 3.7% 8
A350-900 [X01] 369 12 3.3% 8
B787-8 [E21] 291 6 2.1% 6〜8
B767-300ER [A25] 252 5 2.0% 6

バランスの兼ね合いなんでしょう

 ここで出てくるのが、表中一番右の欄の客室乗務員(CA)である。どうやら保安の都合上、乗降ドア1枚か乗客50名に1名を乗務させなければならないらしく(上表は単純にドアの数か乗客50名でCAが1名の数値ですので、実際のフライトでは多いはずです)、MD-90に途中からクラスJを用意しだした(※1)のは、こういう背景もあるようだ。そして、ファーストクラスの応対をするCAという都合を考えないといけない。他のクラスとの掛け持ちはあるが、B777とA350は3名、B787とB767は2名で応対している。ファーストクラスの座席を増やすとその分必要なCAの数が大幅に増える。もし、B787-8のファーストクラスの定員を倍(12名=A350と同じ)にすると、CAの数は3名必要で、6名のうち半分がファーストクラスを担当することになる。しかも、ファーストクラスの応対が出来るCAが必要だ。残り3名で、クラスJと普通席の300名弱の応対をしなければならなくなる(といって、今現在も最低4名で応対と言う状態ですが)。
 なら、コロナ禍で減便している一方、客室乗務員の雇用も確保しなければならない中で、別に、50名に1名と縛らないで、40名にCA1名とかもっとCAを増やせばいいじゃない…とは思うが、CA用の座席をその分増やさないといけないし、まぁ、それは現実的ではないんでしょうね。

 ただ、機会損失を招いているのは事実ではないかと思う。実際、このページを載せる前、全日空のプレミアムクラスの3座席を掲載したが、プレミアムクラスは2009年にB737-700に乗って以来だったので10年以上ぶりだった。これらは、座席を撮るためだけに乗ったが、撮影が終わった後も利用することにした。ファーストクラスが取れず、だからといってクラスJや普通席には乗りたくないからだ。実際、コロナ禍による減便でのイレギュラーはあったが、大体、希望通りの便のプレミアムクラスを予約することが出来た。そう言う人、よほどJALのマイルやポイントを稼ぎたいとかでなければ、いるのではなかろうか。
  ※1(MD-90にクラスJ導入):デビュー当初は166人だった定員が、クラスJ導入で定員が丁度150名になるため。


ライバル他社(プレミアムクラス)のアンサー

 2007年12月にJALがファーストクラスのサービスを始めて4ヶ月後の翌年4月に、ANAはプレミアムクラスというサービスを始めた。上記のファーストクラスの問題点をすぐに見つけたのだろうか、プレミアムクラスはこうしたというアンサーのようだ(一部のサービスは、08年4月よりも後に開始したサービスもあります)。端的に言えば、後出しなのに、ファーストクラスを上回ったわけではないのだ。
 20年春以降から何度かプレミアムクラスに乗ったが、確かに、JALのファーストクラスの方がいい、と思ったのは確かだが、プレミアムクラスにある程度の数乗っていて気づくのが、昔のスーパーシート時代と変わらないという印象である。
 問題点プレミアムクラスの答え
(1)サービスがいい幹線の機内食は、幹線以外の路線よりもよい
(2)路線が少ないジェット機路線はほぼ全便で用意(コードシェアは除く)しているが、空港はそのまま
(3)定員が少ない(ファーストクラスよりは応対は簡素だが)定員は8名以上・単通路機にも用意

 (1)は、正直えげつないかもしれない。幹線=ファーストクラスが用意している路線のことだ。座席や空港は同じだが、機内食が幹線とそれ以外では違う。内容もそうだが、幹線向けの飲み物はグラスや陶器だが、それ以外は使い捨て容器になっている。
 ちなみにスーパーシート時代は、路線と言うより、時期によって容器や内容に違いがあったので、スーパーシート時代と全く同じというわけではない。

 (2)は、JALの場合は「ダイヤモンド・プレミアラウンジ」という最上級ラウンジを使えるが、ANAの場合は、最上級ラウンジがある5空港でも、プレミアムクラスの客は普通のANAラウンジしか使わせてもらえない。また、そもそもラウンジのない空港もある(が、といって喫茶券等がもらえるわけでもない)。
 ちなみにスーパーシート時代は、ラウンジは1種類しかなかった(最上級ラウンジはなかった)。

 (3)は、国内線機材には8〜28名の範囲で用意している。JALもANAも、幹線でよく使われるB777を保有していた(いる)が、ファーストクラスは横2-2-2配列、プレミアムクラスは横2-3-2配列にしていている。そしてCAとの兼ね合いになるが、ファーストクラスほど濃密な応対が少なければ、必要なCAの数も少なくて済む。最近はコロナ禍で、42席仕様のプレミアムクラス(78M・全クラス定員は240名)が充当されることもあるが、ワゴンを使い、4名のCAで応対していた。
 ちなみにスーパーシート時代は、時代的に大きい機材ばかりという都合もあるが、20名以上のB747や10名以上のB767が主だった。


 人間は贅沢なもので、一度いいサービスの乗り物に乗ってしまうと、今度もまたそれに乗りたい、となってしまう。ただ、一応、スーパーシート時代の記憶を思い起こすと、スーパーシートはバランスがよかったんだな…とも思う。いくらサービスがよくても予約出来ないなら…。また、定員が少ない背景のもう一つとして、飛行機が小さくなっていることも大きい。もし、B747-400Dが現役なら、ファーストクラスは20席近くは用意出来たものと思う。幹線の場合は、機材が小さくなったからと言って本数が増えたわけではないので、あくまで想像の域だが、B747→A350になることで、提供出来る上級クラスの席数が半減近くになることになる。


そしてJALのアンサー

 まずはおそらく寸法に行き着くのではないかと思う。
 このサイトには各種寸法を載せているが、細かく見なくても分かる指針がある。座席配列である。

 普通席はどんな機種でも大差無いと言う前提ではあるが、普通席とファーストクラスの座席配列を一覧にした。
機種FクラスクラスJ普通席
シート幅配列
B777-20015652-2-2(6)2-4-2(8)3-4-3(10)
A350-90014002-2-2(6)2-4-2(8)3-3-3(9)
B787-814002-2-2(6)2-3-2(7)3-3-3(9)
B767-300ER14202-1-2(5)2-2-2(6)2-3-2(7)
 シート幅:A+B+C+B+A寸法
 B777-200のシート幅は、デビュー当時(JL772F)のもの
 ちょっと強引な話だが…デビュー当時のB777-200の普通席(そして現在の国際線機材も)が3-3-3配列なので、そもそものB777の普通席は多少狭めだろうが、それでも横10列→6列のB777-200と比べ、9列→6列のA350-900の方が、横幅の占有率が低いことになる。また、B777とA350/B787で乗り比べると、採寸しなくても、中間の肘掛け(C寸法)が狭くなったことが分かる。国内線最上級クラスなのに、2-1-2配列にしなかった。

 そしてもう一つが値段だろう。上にも書いたが、基本、ファーストクラスには割引運賃がない。需給調整で安い運賃を用意しなくても、結果として満席が続いている。普通席には用意している安い運賃で購入しておいて、当日アップグレードするという手段もあるが、空席がある可能性は低い。値段によって使うことをためらう人も少なからずいるだろう。


特別席は難しい

 このページのサブタイトルを使うと、供給と現実を見誤ってしまっているわけである。
 なぜJALの国内線にファーストクラスが出来たかというと、プレミアムエコノミー相当のクラスJだけでは、高価格帯の客がスーパーシートプレミアム(当時・現在のプレミアムクラス)のあるANAに流れてしまったから、という話を聞いたことがある。そう言う意味では、実質普通運賃でしか乗れないがそれでも満席になるファーストクラスは、金のなる木かもしれない。ただ、それでも乗れない人が多いと、再びANAに流れてしまう可能性もある(クラスJが嫌でANAに流れた人が、再びクラスJにするかどうか)。また、単にグリーン車のように座席を置けばいいだけではなく、地上、乗務員、飲食物と、下準備・調整も多い。何もしなくても乗るからと言って手を抜くと、あっという間に枯れてしまうので、その辺りは気にして貰いたい(機内食に少しそう言う兆候が見えますが…)。
 特別席を設けることが、(+αの支出もあるけれども)収入を増やす策の一つだろうが、スカイマークや小田急のようになくしたり、そもそもない会社が多いのは、こういう背景があるからかもしれない。個人的には、フジドリームあたりはあっても良さそうだけど…。




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