「責任」だけで済む話ですか?
掲載日 | 2010年01月12日 |
※掲載当時の内容で現在は異なります |
2009年の秋頃から、いわゆる“JAL再建問題”がニュースでよく取り上げられている。詳しい情報は、新聞などで見てもらいたい(日経新聞の、特集 日航再建の行方が便利です※JavaScriptが必要です)。“清算”する場合は、残っている資産などをいかにして債権者に分配する必要があるのかという話だろうが、“再建”である今回の話は違う。将来的なことを考えれば、客を減らすような事をしては意味がない。例えば、今までは後払いで済んだ燃料費などを、先払いで支払う必要になれば→払ってくれるまで燃料をあげない→ちゃんと飛んでくれるか分からない→他社に流れる→再生しても意味がない…と、そうならないように、補償を付けて、後払いですむようにする云々あるようだ。飛ぶか飛ばないかが不安なら、あえてJALに乗るなんて言う人は少ない訳で…。
マイレージ会員や上級会員の属性
マイレージについては、会員数が多い=心配している人が多く、また一種のお金のようなものでもあるためシビアになるのは分かる。「マイレージは保護する」という話で行くようであり、ニュースにもよく流れている。とはいっても、特典交換の限定数や(例:今までは1便で10人が特典で乗れたが、5人に減らされる)、今までと同じマイル数で交換できるか(例:10,000マイルで交換できていたが、15,000マイルが必要になった)は分からないが…。
「上級会員」とは、マイレージ会員のうち、飛行機に沢山乗った会員に対して、航空会社から優待される属性の会員のことである。優待サービス(専用チェックインカウンターや空港ラウンジなど…JALファーストクラス“搭乗前”を参照)を用意することで、特に他社に流れて欲しくない顧客(上得意さま)だという、航空会社の意思表示である。もちろん、このような制度は他の航空会社でも用意されているため、JALから上級会員制度がなくなれば、あっという間に他社に流れることは容易に想像できるため、上級会員制度はなかなかなくせないのではないかと思うが…これについては、目立った見解がない。また、現在の優待される内容が、どれだけ維持されるかなども重要である(他社と比べてサービスが劣れば、上級会員制度という名前だけが維持されていても意味がない)。
JALの株主の属性
マイレージ会員、上級会員ともまた違うのが、「株主」である。JALの株主になると、国内線が割引になる優待券が貰える。この優待券を目当てにJALの株主になった人も多く、株主の6割近く(56.76%)が個人株主で、38万人いるらしい。
手持ちの資産を増やしたいというようなビジネスと言うよりも、ある程度の資産があり、多少の余裕のある人がJALの株に手を出すだろうと仮定するが、一方で旅行は金銭にある程度の余裕がない人でないと行かない、そして更に、株主優待券目当てということは、旅行に行くためにJALの株を保有しているようなものである。旅行に行けるくらいのお金に余裕のある人が、株を買い、その優待券で旅行に行く、と言う訳である。
「会社は誰のもの?」という話とは別として、上記の上級会員とはまた別の、尊重しないといけない顧客の属性ではないかと思う。少なくとも、格安のパックツアーでしか飛行機に乗らない属性の人たちよりは、である(JALの株主優待券はJAL便でしか使えない一方、この属性の人たちは、他社が安ければ他社に移るだけなので)。
ところが、昨今の報道によると、上場を廃止し、上記のような人の手持ちの株≒お金を、「株主責任」の名において、「ゼロ」にしようとしているようだ。その理由としては、あまりにも負債が多く、借金を帳消しにするために、株主にも「責任」をとらせるということのようだ。株主優待券目当てで買う人が多いと言うことは、その手持ちのJALの株がゼロ=紙くずになったからといって、首を吊るほど生活が困窮する人は少ないとは思う。また、その会社の株を買った(投資した)人間は、その株の価値がゼロになり、投資したお金が戻らなくなる可能性があるというリスク(責任)があることを、知らない人はいないはずである。
しかし、優待券が貰えず、しかも投資した金額がゼロになれば、確実に、旅行が減る=飛行機に乗ることも減るだろう。やがて数年後に、JALが再生して、再び上場したとしても、消えたお金が戻ってくるわけではない。「再生/再建」=客を減らさないためにやっている割には、「責任」の一言だけですませるのは、将来的な話や事情を考えていないような気もする。38万人という利用者が、飛行機に乗らなくなる(乗る機会が減る)わけである。個人的感情で他社に流れる可能性も、ゼロではないはずだ。
※株式会社の株主は、経営が悪くなった際、「有限責任」という形で、自分の土地が奪われるなど、投資した額以上に払うことはないものの、その投資した額がゼロになるリスクがある。
そもそも…
JALの経営をここまで酷い状態にしたのは、一体何なのだろうか。
年金や人件費も大きいだろうが、政治家や官僚が無駄に空港を作り、そこに赤字覚悟で飛ばせたこともあるのではないだろうか。政治家や官僚の悪巧みの結果、株主に「責任」という大義名分の元で、手持ちの価値をゼロにしてしまうわけである。
政治家や官僚の悪事の責任をとるのは、38万人の「株主」というよりも、1.2億人の「国民」全般であるというと、大袈裟だろうか。だからといって、JALは全く悪くないかというと、そうではないので、全額税金で補填するのも、おかしな話だが…。そんな中でも、無駄に空港を作らせたり、JALに無理矢理飛ばせようとした政治家や官僚は、今頃見て見ぬ振りをしているのだろう。
両方の顧客を失った場合
従来のサービスと全く同じ状態で維持されたら、それこそ奇跡だろうが、それはまずありえない。
沢山乗る上級会員の制度がどうなるか分からない、飛行機に乗ってくれる余裕がある株主の出したお金が実質ゼロ…となり、このような属性の顧客がJALの利用を控えた場合、この先、使ってくれる客は、どういう属性の客なのだろうか。その属性は、はたして再生が成功する要素を持つのだろうか。再生させる人たちは、そう言う事情を分かっているのだろうか。
上級会員への優待内容を落とす/上場廃止を決める人たちは、それらが原因で既存のJALユーザーが減ることへの責任は、取るつもりなのでしょうか。減ることは想定の上なのでしょうか。
このような属性の客は、ツアーのような単価が低い航空券ではなく、比較的高い航空券を利用する人が多いと思うが、そう言う人たちの便宜を図らないのだろうか。再生されたJALも、客がいなくても飛ぶつもりなのかもしれない。
ちなみに日本国内には、大手の航空会社が、JALを含めて2社ある。片方があるから、もう片方もこのような状態となっているわけで、もしJALがなくなったら、もう片方は、どのような本性をさらけ出すのだろうか。その、もう片方の会社とは、今の時点でこんな応対をする会社ですよ。
※文中で、厳密に言えば、用語の使い方に間違いがあるかもしれません。
※10年1月掲載時のまま、特にその後内容は変えていないため、現在時点の状態と違う内容もあります。
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