スーパーシートから
ゆとりを奪う、JALとANA


  ここ最近、スーパーシートのサービスが、下落している。マイレージサービスによる代償、といってもよいかもしれない。例えば、ラウンジである。以前は、スーパーシートに乗る人は、飛行機に乗る前にセキュリティチェックが終わった先にあるラウンジが使え、出発直前までくつろげる場所があった。一方、マイレージサービスの積算路線が国内線にまで広がってきた。また、航空会社はマイレージ入会を強く勧めるようになってきた。マイレージサービスは、「何万マイルに乗ると、無料航空券」だけではなく、たまったマイルに応じて、“一クラス上のサービス”的な制度がある。この制度の特典の一つに、セキュリティチェックから先のラウンジが使える、というものがある。広告などにより、マイレージクラブに入会する人が増えてきた。そして、その一クラス上の会に入る人が増えてきた。すると、ラウンジが混雑してきた、らしいのである(あくまで航空会社の人に聞いた話なので、真偽のほどはいかに)。そこで大手2社は、ラウンジを廃止する代わりに、値段を落とした(逆かもしれないが)のである。つまり、「いつも乗っている人にはラウンジに入れてやるが、たまにしか乗らない奴には入れてやらない」というわけである。たまにしか飛行機に乗れない人たちの、スーパーシート利用によるささやかな優越感やくつろぎ感を剥奪したのである。ところで、JALでは、羽田空港に二つのラウンジがあった。片方は、そのような“一クラス上”のマイレージ会員用のラウンジ(サクララウンジ、と言った)、もう一つはスーパーシート客用のラウンジ(スーパーシートラウンジ、と言った)である。今はどうなっているか?話によると、その二つのラウンジの境の壁をぶちこわし、サクララウンジになっているようである。実際、渋々ラウンジがなくなったスーパーシートを利用したが、いらいらして仕方がなかった。
 これにより、こういうことも生じるだろう。夫婦で旅行に行くことになった。久しぶりの旅行なので、せっかくだからと特別席を選んだ。そして、空港。夫は、海外出張が多く、飛行機には数多く乗っており、マイルがたまり、“一クラス上”の会員になっているが、妻は専業主婦なので、そうではない。以前は、スーパーシートの利用客であれば使えたラウンジが、今では夫しか使えない。さすがに「お前は搭乗口付近で待っていろ、俺はラウンジにいるから」と言うわけには行かない。その夫婦は、搭乗口付近の椅子で、飛行機に乗るのを待っていた……。ちなみに、「ラウンジ利用券」などがあり例外的に使えるかもしれないが、夫婦ならばラウンジが使える、などの話は聞いたことがない(ラウンジ券のことも聞いたことはない)。

 大手の航空会社と言えば、現在では3社だが、ラウンジを廃止した卑劣な会社は2社である。もう一社は、と言うと、ラウンジがきちんと残っている。その会社は日本エアシステム、と言う会社で、私は、こういう出来事が起こる前はその二社のうちの片方を使っていたが、今ではラウンジがあるその一社をできるだけ使おうとしている。

 大手二社がサービスを劣化させたのは、これだけではない。以前は国際線ファーストクラス並のフォーク・ナイフと、きちんとした陶器の食器に彩りよく飾られていた機内食が、今では使い捨て容器になってしまった。グラスなども同様である。食事の内容はホットミール(温かい食事)が採用されたりと以前よりも良くなっているかもしれないが、せっかくの温かい食事を、使い捨て容器で食べるというのは、気分が冷める。ラウンジなどの実質的なゆとりも必要だが、食器のような気分的なゆとりも重要である。

 普通席のサービス劣化であれば、まだ仕方がない。競争が激化し、共倒れになりかねない状態からかもしれないからである。また、「サービスよりも値段」という考えもある。ところが特別席は、そうではない。「普通席が満席でスーパーシートしか座れなかった」場合ならともかく、自ら(他人のお金かもしれないが、どちらにしろ誰かの)財布の紐をゆるめて追加料金を払っていて、これはもちろん、サービスを目当てで払っている。だれが、「値段を安くしてサービスを省いた特別席」に座りたいのだろうか。






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