バスにもいくつか種類がある

掲載日2012年05月06日
※掲載当時の内容で現在は異なります

 2012年の大型連休が始まって間もなく、関越自動車道で大きな交通事故が起きました。死者が7名という、単独事故では一番死者が多い事故とのこと。このツアーバス、「乗らなきゃいいでしょ」だけではすまない事情があります。私自身、今までツアーバスなんかには乗ったことはありませんが、個人的な恨みがあります。


用語の説明

高速バスJRバスや私鉄が運行する乗り合い路線バスのこと。
ツアーバス旅行会社が企画し、旅行会社が貸切バスをチャーター、運行はバス会社に委任する、募集型企画旅行のこと。そのため、ツアーという名が付いている。
催行最少人数このツアーを実施するには何人以上集まらないと実施しませんよ、の意味。例えば、経費が10万円で、一人1万円がツアー参加費であれば、少なくとも11人以上でないと損をするため、10人以下ではやらない。
今回
今回の件
2012年4月29日に、関越自動車道の群馬県藤岡ジャンクション付近にて、28日始発の金沢発首都圏方面行きのツアーバスが起こした事故。死者7名。

…とあるアンケートサイトで「ご存じの高速バスは?」という設問があり、高速バス(の運行会社名)と大手ツアーバス(のブランド名)が一緒くたに選択肢にありました。おそらく、アンケートの依頼主はツアーバス側で、一緒くたにして欲しいのではないかと思います。


ツアーバスと高速バスの違い

 普通の「ツアー(募集型企画旅行)」というと、往復の交通、宿泊、食事などをひとまとめにして、とある金額で実施する「旅行」のことです。契約書に、これとこれを提供します旨、記載があるはずです。旅行会社自身は、乗り物を運転したり、宿泊地を提供するわけでもなく、これらを仲立ちします。ツアーバスというのは、「交通(貸切バス)」だけを提供する旨の契約になっているわけです。普通のツアーのように催行最少人数もあるでしょうから、損しそうなら走らせなくてもいいですし、チラシに「値段を下げました」「催行日を増やしました」とあるように、旅行の金額や実施日程の増減が容易に行えます。
 一方の高速バスは、時刻表に基づいた「輸送」だけのことです。飛行機や列車も同じです。地方のローカル線のように、お客さんが誰もいなくても走らせなければなりません。運賃や便数の変更がすぐに出来るわけでもなく、飛行機の時刻表にも「この時刻表は政府認可申請中です。」と書いてあるほどです。ちなみに、航空券を買うと、安い値段で宿泊地やレンタカーの予約が出来るというサービスがありますが、航空券はこちら(輸送)、宿泊・レンタカー部分だけ「ツアー」扱いとなります。

 今の所、批判の矢面に立たされているツアーバスですが、もちろん、メリットもあります。特殊な話ですが例えば、つくばエクスプレスが開業して日が浅い頃、つくば駅から筑波山への登山の観光客が増えたことがありました。ただ、それはきっと、一時的な状態です。これが、普通のバスだけだと、1日で10本あるかないかという程度だと思います。ところがそれでは裁き切れず、増発が必要です。しかし、増発するには申請などが必要です。そこで…利用者はバス乗り場でお金を払って“会員券(乗車券ではない)”をもらい、「輸送」ではなくあくまで「旅行」として、事実上、バスを増便することが出来ました(しかも、つくば駅から筑波山付近まで直行です)。このバス、きっと翌日の平日にはほとんど走らせていないでしょう。この「事実上(利用者を輸送する)」というのがツアーバスです。

 ツアーバスの主催者は、バスを走らせているのではない→下請けにやらせているわけです。下請けというのは、立場が低いわけですから、上からどういう指示がされるか…断ると仕事が貰えない中で、無理が重なるのは想像できると思います。“悪質なバス業者”などと記載している新聞記事もあるようですが、もちろん、そういう業者もいるでしょうが、指示した黒幕=悪質な旅行会社かどうかがもっと重要かもしれません。例えば、今回のバス業者は、法律で禁止している運転士を日雇いで使ったとのことですが、もしかしたら、そうでもしないと、仕事が単発的だったり(運転士をずっと抱えられない)、給与的に割に合わない、という話しがあるのかもしれません。


ツアーバスのお陰で

 じゃあ、ツアーバス以外の他の手段(高速バスなど)を使えばいいじゃないか、と言っても、それが事故を回避できるかというと、そういうわけでもありません。自分自身は高速バスに乗っているとしても、隣には、何時暴走するか分からないツアーバス(や、無免許運転の未成年)が走っている可能性もあります。今回の件は他の車を巻き込まなかったのが不幸中の幸いですが、根絶しろとはいいませんが、かなりの迷惑です。
 しかも、残念ながら、手段のいくつかは、使えなくなってしまいました。「夜行列車」です。上野と金沢の間に、「北陸」という寝台列車と、「能登」という座席電車が走っていましたが、この2列車は2010年3月に廃止になりました(能登号は、多客期のみの臨時列車に格下げ)。
 件の事故を起こしたツアーバスは、金沢〜首都圏で4000円もしなかったようですが、鉄道の一番高い例は、上野〜金沢間の「北陸」号のシングルデラックス、24160円です。トイレ無し+座席は2-2配列の観光バスと、一両に定員10名程度で個室内に洗面台がある寝台を比べること自体おかしな話ですが、単純な移動で、6倍の差があります。ちなみに高速バス(ドリーム金沢や金沢エクスプレス・車内参考)は、7840円(車両はトイレ付+座席は1-1-1配列)と、2倍の差です。
 結局、この安価な輸送手段にデフレも手伝って、値段だけ見られて、値段が高い夜行列車がなくなっていった可能性があるわけです。もちろん、車両の老朽化、JRの営業努力や、北陸新幹線絡みで早くなくしたいという思惑など、廃止したがる材料はいくらでもあるでしょう。個室寝台の多かった「北陸」は乗車率は低くはなかったでしょうが、新しい車両を造る程儲かってはいないのかもしれません。
 私自身、夜行便でも、寝台列車なら寝られますが、バスだと眠りが浅くなってしまいます(特に休憩中、静かになったとき)。高速バスであろうと同じです。現在、首都圏〜北陸間を夜に移動するには、バスしか手段がありません。もし、北陸地方に朝に用事がある場合、前日のうちに飛行機などで向かい、前泊できればよいのですが、できないと、バスしか手段がありません…まぁ、これは北陸に限った話ではないのですけど。


実害をこの先増やさないために

 「高速バス」と「ツアーバス」の区別が分からなければ、ちょっと座席は狭いけど、同じくらいの時刻に出発し、同じくらいの時刻に同じような場所に到着できれば、安い方がいいじゃないか、と思う人が多かったのでしょう。また、東京〜大阪間のような輸送量が多い路線となると、ピンからキリまで様々な座席タイプが用意され、ツアーバスは、かなり人気ではなかったかと推測されます。
 ツアーバス人気に伴い業者が増え、その分悪質なパターンも出てくるわけで、法律で規制できなかったのかと言うことになります。ところがこの規制そのものが、2000年に緩和したばかりだそうで、(これまでもツアーバスで事故があったにもかかわらず)今回の大事故になって、ようやく、考え直さないと行けないところに来たのではないかと思います。幼稚園と保育園が、それぞれ管轄する省庁が違うようですが、高速バスとツアーバスも、輸送と旅行で、関係する法律が違いますから、どこまで利便性は損なわずに安全に移動できるように規制できるかは微妙なところですが…。

 個人的には、規制が強化され、費用が掛かり、やっていけなくなってツアーバスが淘汰され、夜行列車が復権できればよいのですが、これはまぁ、もうちょっと時代が変わらないと無理なんでしょうな。




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