鉄道って、スピードだけか?


 2000年の7月に、航空3社が東京−大阪間のシャトル便を運行することになった。これにより、同じ時間帯に便が集中するという意味がなさそうな事態が解消され、さらに値下げや、3社共通のサービスが生まれるなど利用しやすくなっていくはずである。
 一方でJR東海も、それに対抗すべく、のぞみ号を増やし、自由席も用意するという。東京−大阪間を早く結び、また全席指定の飛行機に対抗するために自由席も用意するのだろう。これは確かに、飛行機に対抗しているのは分かる。しかし、新幹線は、完全的に飛行機をライバル視しても良いのだろうか(飛行機だけをライバル視しても良いのだろうか)?
 言うまでもないが、飛行機には飛行機の、新幹線には新幹線の良いところがあり、その良いところは飛行機も新幹線もそれぞれ違う。例えば、地上で自然災害などがあっても、空港に問題がなければ飛行機は運航できる。静岡や名古屋から東京や大阪へ行く場合はは新幹線が圧倒的に便利である。また、飛行機は一度座れば1時間程度で大阪へ着くが、新幹線は速くても2時間30分は乗っていなければならい。新幹線にはシートベルトは必要なく移動も自由であるが、飛行機はあまり席を立つことは出来ない。
 また、新幹線は在来線やバスなどともライバルである。新幹線は、在来線やバスと比べると圧倒的に速いが、夜は整備のために走れない。
 飛行機や新幹線の長所は、新幹線や飛行機の短所でもある。それを、新幹線を運行する立場であるJR東海は、上手く理解していないような気がする。飛行機の長所であるところが現代では必要としていて、新幹線としても極力近づけようとしているのかもしれない。しかし、近づけた結果、鉄道の魅力的な部分を切り捨てているのである。
 自由席を用意するのは、シートベルトがいらない鉄道の魅力から生まれたものでもあるので、ここでは除外する。まずはのぞみ号を増やすことであるが、のぞみ号=止まる駅が少ない。つまり、途中駅から出来るだけ早く大都市へ行けるチャンスを減らしていっているのである。東京や大阪などの代表駅のみをターゲットにしているが、東京と大阪の2カ所は、空港のある場所でもある。途中駅の利用客の利便性を考えに入れず、ひたすら飛行機の利用客だけを考えに入れているようにも見える。いかにして飛行機の利用客を新幹線が取るかは重要だが、他の利用客の利便性を奪うのはよろしくはない。
 次に、のぞみ号を運行すると言うことは、所要時間が短くなる。つまり、長距離列車に必要な、供食設備を減らそうとする。供食設備とは食堂車やカフェテリアなどのことである。飛行機内にカフェや食堂などを設けることは、まず無理である。実際に、ひかり号で主に投入されている300系には食堂車はなく、その後に開発された700系には300系にはあったサービスコーナーがない。列車は、移動が自由な交通機関である。もちろん食堂車など動ける先があればいいのだが、トイレ程度しかない列車は、それほど動く機会はない(席を離れても面白くない)。700系の場合は、何かを買いたい場合は自動販売機のあるところへ向かうか車内販売を待たねばならないが、車内販売の場合は全長約400メートルある新幹線列車に、2〜3しかないカートをいたすら待つか、揺れる車内を歩いて探さねばならない。散歩がてら「何かあるかな」と思いながらサービスコーナーなどへ行き、あれば買うのは楽しいが、「コーヒーが欲しい」と、何処にいるか分からないカートを探すのは、トイレに行くのと同じで必要に応じた行動で決して楽しくない。また、カートの先には待っている利用客もいて、ゆっくり品定めも出来ない、品定めするほどのアイテムもない。食堂車に至っては、過去の遺物として処理しようとしている。所要時間の短縮はもちろんだが、着席定員の増加や、食堂車利用客数の減少も理由としてにらんでいると見られる。しかし、日本の飲食店は減衰しているわけではない。食堂車のスペースを、30分以上はかかるであろう食事の場ではなく、15分程度の喫茶の場にすれば短距離・短時間利用の利用客も利用できるのではないか。それがビュフェに当たるのだろうが、今でもごくわずかに残っている新幹線のビュフェは、落ち着けるような場ではなく、席に座れなかった人のたまり場的なものにしかなっていない。
 最後に、のぞみ号は、最速列車であることから、座席程度の最低限のものしか連結していない。300系以降の列車には、食堂車やビュフェだけでなく、個室もない。個室は、複数人で行く旅行を盛り上げるために使うほかに、政治家や著名人などのプライバシーを守りながら輸送するという重要な目的がある。普通の座席の場合は、通路を歩く人に見られ、そのたびに「サインが欲しい」などとせがまれる可能性がある。また、仕事をするにも個室は使いよいだろう。携帯電話を使うときもわざわざ席を離れる必要もなく、東海道新幹線の一人用個室はテーブルが大きいので、作業もしやすい。何より、他の乗客を気にしなくて良い。もちろん寝るにも個室は良く、鍵さえかければ盗難に遭う可能性は格段に低くなる。そういう効力を持った個室を設けた新幹線は、今ではほとんどが各駅停車の運用しかされていない。値段が高いというのももちろんあるのだろうが、時間が重要なビジネスマンや著名人の移動手段からは避けられているようである。
 鉄道の魅力をあえてなくしているかのような現在の新幹線。工夫次第で、今となっては廃止に近い設備も生きると思うのだが...。






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