洗面所がない!!

掲載日2012年05月06日

 「バリアフリー」ということで、ここ最近の公共施設、ビルなどは、車椅子の人の移動に障害にならないように配慮しなければならないようです。幅の広いドアや、スロープやエレベーターの設置、広いトイレなどを指します。平均的な車椅子の寸法の回転半径等々を元に、このくらいの広さならいい、という指針もあるようです。
 ※おことわり・あくまで、車椅子に乗られている方は、好きで乗っているわけではない、という状況であることは認識しております。

当たり前にあると思ったら…

 列車内の、水回りの公共スペースといえば、トイレや洗面所があります。近郊型列車の場合はトイレだけ、特急車両になるとトイレの他に洗面所、男子用トイレも装備されるのが一般的です。洗面所があるのは、特急車両だけとは限りません。普通列車グリーン車にも備えてあります。
 ところが、最近の新車を見ると、グリーン車にも拘わらず、近くに洗面所が用意されていない列車があります。JR北海道のDC261系1000番台、JR東日本のE259系、JR四国の5000系がそれに当たります。JR北海道のDC281系などのように、トイレの中に大きな洗面器のボウルが併設していれば問題ありませんが、上記3列車にあるのは手洗い用の小さな丸いボウルのみです。
 洗面所の目的というと、手洗い、うがい、歯磨き、洗顔、身支度(ひげ剃りや化粧)と、いくつかありますが、鏡が重要な身支度を除いて、小さなボウルでもどうにかなるのは、手洗いだけではないかと思います。無理をすれば、それ以外のものも出来なくはありませんが、ボウルに水が収まりきれず、カウンターや床を汚してしまいます。身支度にしても、あえてトイレで行いたいという人はそんなにいないと思います。
 なぜ、これらの列車に用意されないのでしょうか。これらの3トイレには、大きな共通点があります。広いのです。つまり、飛行機のトイレのように狭くて、そんな大きなボウルが置けないよ、というわけではありません。何故広いのかと言えば、車椅子利用者のためです。
 車椅子利用者が難なくトイレを使えるようにという仕様に従った結果、スペース的に洗面所が置けなくなったのではないか、と推測が出来ます。ちなみに、普通列車のJR四国5000系は除いて、残り2つは、列車内を1〜2両歩き、もう一箇所のトイレに行くと、洗面所があります。追加料金を払った客に対して、20〜40メートル歩けということです。また、大きいボウルの洗面所がなくなる他にも、客室がその分狭くなったりするなど割を食う部分も存在します。広いトイレは誰にとっても使いやすいですが、利用者全員が快適に過ごせることが、こういう法律の目的だと信じたいですが、何だかごく一部の人のためだけの施設・車両になってしまっていないか、ということです。


飛行機の搭乗順序

 飛行機に搭乗する際、搭乗する順序があります。国内線は、優先搭乗その1・体の不自由な人→優先搭乗その2・上級クラス(JALファーストクラス・ANAプレミアムクラス)や上級ステータス(上得意様)→総てのお客さま、という順番です。「体の不自由な人」はひとくくりにしましたが、怪我人、妊娠中、2歳以下の幼児連れ、お年寄りを指していますが…「車椅子の方」が入っていません。車椅子の人は、この時点で既に、機内で着席しているのです。というのも、車椅子を降りて、飛行機の座席に座るには時間が掛かるため、この人が座ってから、優先搭乗を開始します。車椅子から席に移る間、通路は埋まってしまうわけで、却って混雑するからでしょう。

 一方、私が機内の撮影をするときは、主に、この優先搭乗者が少ない時を狙います。優先搭乗者が少なければ、もしかしたら人のいない写真撮影がうまく行くかもしれない、という程度です。ところが、車椅子の場合は、例え一人しかいなくても、我々が機内に入った頃には既に着席しているわけですから、どうにもなりません。一方、機内は汚れてはいるものの、乗客が降りた後はどうかといえば、車椅子は、最後の最後です。つまり、私自身が機内に残っていても、車椅子の降機はそのあとです。
 ここ最近、車椅子の搭乗がずいぶんと増えたような気がします。この先新しい機種は出てくるはずですし、機種は新しくなくても、機内の仕様は変わることはあります。そういうとき、「車椅子」が、直接的に表現すれば、邪魔に感じてしまうわけです。もちろん、上記の通り、車椅子には好きで乗っているわけでもないでしょうし、その他の移動で相当ご不便を強いられているでしょうから、恨むわけにもいきません。ただ、素直な感情としては、自分が撮影したいときには乗って欲しくないなぁ…というのが正直なところです。
 五月蠅い可能性がある幼児から離れた席を希望したい、いない便に乗りたいときは、航空会社によっては、予約時にシートマップを表示した際に、「幼」マークが表示されますが、車椅子の人が五月蠅いかどうかと言うと、これは個々人の問題で、「車」というマークが表示されるわけではありません。搭乗直前にならないとわかりません。写真撮影目的で乗ろうとしてこうなってしまうと、払った金額が無意味、ということになってしまいます...。


まだ現役で走れると思うんですが…

 上記の話は、人のいない機内を撮影したい人の例という、非常にレアなパターンですが、最後はもう一つのパターンです。まず、2012年3月を持って、小田急ロマンスカーの10000形(HiSE)と20000形(RSE)が引退しました。

 あくまで、冒頭のバリアフリーの話は、既存の施設にまで改造しなければならないと言うほど強い話しでもないようですが、これらに引っかかったのが、小田急ロマンスカーの2形式です。
 この2形式よりも古い車両(7000形)が2012年4月以降も現役で走っていながら、なぜそれよりも新しい10000形と20000形が廃止になったのでしょうか。この2形式に関係するキーワードが「展望性」です。ロマンスカーの展望席というと、列車両端の、運転席が2階にあってパノラマの窓の…という話が思い浮かびます。ただ、廃車にならない7000形は当てはまるのに、外から見れば普通の特急車両の20000形は当てはまりません。廃止になった2形式は、車両全体で、車内の床が高かったのです(ハイデッカー)。ホームの高さは全駅共通ですから、車両が合わせる必要があります。この2車両には、デッキの出入口に段があります。この階段が、車椅子(や、歩行が困難な人)での乗車にとって厄介なのです。
 通勤電車でよく見かける光景で、折り畳み式のスロープを、ホームと車両に通して、車椅子が通行する光景をよく見かけますが、その車両に、更に階段があったら…ということです。車内には、車椅子用の縦長トイレが設けられていますが、最初の時点がNGというわけです。

 特に10000形は、特徴的な外観から、人気のある車両だと思いますが、もしかしたら、車椅子の乗車に不適切じゃないか、と苦情を送った人がいたのかもしれません。一方で、20000形というと、小田急唯一の特別席を設けた2階建て車両があります。この20000系が廃止になることで、特別席も廃止になりました。おそらく、2階建てという構造も、車椅子の通行に障害がある、と噛み付いた人がいるのかもしれません(全車2階建てではありませんが)。
 小田急のWebサイトや時刻表には、どの列車がどの車両で走るという情報が掲載されています。一方、バスや路面電車でも、車椅子での乗車に便利なノンステップの車両か否か、停留所や電停の時刻表に載っています。全列車が全列車、車椅子には対応していませんというのであれば、ちょっと考え物ですが、大半の車両は対応しており、1本待てば(降車駅がメジャーな駅なら30分と待たずに)、車椅子対応列車に当たることは十分にあり得ます。2形式の廃止の背景には、20000形は主にあさぎり号で使われていますが、利用者が少なく、ついでに、同じ足回りの10000形も一緒になくしてしまおう、という考えがある可能性もありますが、どちらにしろ、乗る楽しみを奪われたというのが正直な感想です。


旅行に関してもう一つ(2018年03月04日追記)

 2020年に主に東京において、大規模なスポーツ大会が行われるようです。となると、その分、見物しに来る車椅子利用者も増えることから、宿泊施設には1室以上の車椅子利用者用の客室(以下 バリアフリー客室)を設けろと言う基準があるようです。ところが実際は、宿泊施設からのアンケート回答のうち3割しか整備されていないとのこと(東京新聞・追記日朝刊の記事より・内容は大分端折っています)。
 上記新聞記事には、障害者側の立場の人は、全室がユニバーサルデザインであることが重要の旨コメントを寄せています。
 しかし、それが本当に利用者のためになるのでしょうか。バリアフリー客室は、ドアや廊下の幅や、バスルームの面積を広くする必要があります。部屋を広くするには、魔法で土地や建物が大きくできれば問題はありませんが、実際は工事をする必要もありますし、10部屋ある客室が9部屋に減らされると、その分収入も減ります。宿泊施設は慈善事業ではありませんし、障害者向けの部屋を多くしたからと言って補助金が来るわけではありません(改修時は分かりませんが)。ざっくり計算すると、1割客室が減れば、1割宿泊料金を値上げしないと割に合いません。昨今、外国人の訪日が増え、宿泊施設が足りなくなり、一方宿泊料金の高騰が目立っていますが、それに更に輪を掛けて値上がりするわけです。
 (推測ですが)楽器などを保管するため等々、車椅子利用者以外でも通路幅が広い方がいいと思う利用者もいるかもしれません。しかし、客室が狭くてもいいから宿泊費を抑えたい利用者は多分それ以上にいます(実際、ホテルの予約ページは、他室より狭いから他より安い金額で売るホテルもあります)。“安いのが良ければ(車椅子利用者が使えない)カプセルホテルにでも泊まってろ”と言うのは乱暴です。その辺りはただ闇雲にそういう部屋を増やして欲しくないものです。全旅行客のなかの、車椅子利用者の割合と同じくらいでいいのではないかと思います。


自主的に排除するか、他人にも強制させるか

 食べ物の話で言えば、ここ最近のパッケージには、アレルギーの人向けに…
  ・こういう材料が入っています
  ・こういう材料を扱った工場で製造しています
  ・こういう材料を扱った同じ調理器具を使用しています
…旨のコメントが入っています。もちろん、情報提供は必要ですが、今回(車椅子)に当てはめると、この材料が入っている食べ物は一切売るな、工場でも扱わせるな、と言っているようなものです。
 (2016年01月追記)実際、一方でこの世には、レストランに対して…
  ・こういう材料を使うな
  ・今までその材料を扱った調理器具を使うな
  ・祈りを捧げた食材だけ使え
…という宗教があることは最近有名になりました。これらの規律がある宗教は、今の日本ではマイナーな分類に入りますが、世界の人口の25%近くがこの信者とのこと。この宗教の信者を日本に(観光客として)呼び寄せるため、結局は、商売の道具として、そういう規律を守ることになります。今後、そういう規律を守るレストランが増えることで、日本でおなじみのあの料理が食べられなくなる(代替品で作られる)、なんてことにならなければよいのですが…。
 話はずれますが、多くの国の憲法にあるという「信教の自由」とは、他人から干渉させられないと言うことではないかと思います。一方この話は、何処に行っても自国の文化を強制させることになります(その国の憲法に「信教の自由」がなければ、強制させてもいいのかもしれませんが)。また、宗教って、商売繁栄のためにあるのでしょうか(信者が幸せになるためには、お金=商売は必要かもしれません)。旅行なら、来なければいいだけですが、2015年の年末にニュースに出た移民とか難民とか…車椅子以上にオオゴトになってしまいます。

 この3パターンの話しは、車椅子を優先したばかりの結果で、このごく一部のためだけに、こうなってしまうのは残念でなりません。もし、乗客の半分は車椅子の人だ、というのであれば、もっと十二分に考慮しなければならないと思いますが、以前と比べて増えたと言っても、乗るとしても1便に1〜2人。展望にしろ、洗面所にしろ、そこまで犠牲にしないといけないのでしょうか。「触らぬ神にたたりなし」のように、車椅子対応(バリアフリー)が却ってバリアを作ってしまうような気がしてなりません。車椅子を使う人も使わない人も、(旅行であれば楽しく)便利に使えるように、他の策でどうにかならないものでしょうか。




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